彗星探査機「ディープ インパクト」や火星探査車「キュリオシティ」等のNASA のミッションに採用された当時最先端の宇宙グレード プロセッサ製品が初めて世に出て以来、20年間で世界は劇的に変化しました。世界経済フォーラムが発表した報告書によれば、宇宙機ハードウェアおよび宇宙機サービス産業は、2023年の3300億ドルから2035年には7550億ドルへと年平均成長率(CAGR) 7%で成長すると予測されています。より自律性の高いアプリケーションなど、計算ニーズの急速な拡大とともに成長を続ける多様な世界の宇宙機市場をサポートするため、マイクロチップ社は本日(元記事日付2024年7月10日)、製品化が予定されている(PIC64高性能スペースフライト コンピューティング)MPU(マイクロプロセッサ)ファミリの最初のデバイスを発表しました。

マイクロチップ社が NASA をはじめとする広範な防衛および民間航空宇宙産業に供給する予定の耐放射線性と耐障害性に優れたPIC64-HPSC MPU には、従来のスペースフライト コンピューティング ソリューションとは異なり、ベクトル処理命令拡張機能で強化された、RISC-V®CPU アーキテクチャの採用によって、AI/ML(人工知能/機械学習)アプリケーションをサポートしています。この MPU には、これまで宇宙向けアプリケーションでは利用できなかった一連の機能に加え、業界標準のインターフェイスとプロトコルも実装されています。システムレベルの統合ソリューションの開発を促進するためにパートナーのエコシステムが結集され、その規模は現在も拡大中です。このエコシステムにはSBC(シングルボード コンピュータ)、宇宙グレードのコンパニオン部品、オープンソースおよび市販ソフトウェア パートナーのネットワークが含まれています。

RH(耐放射線強化)の PIC64-HPSC RH は、月面探査車の危険回避等、自律型のミッションに対してリアルタイムタスクを実行するローカル処理能力を与えるだけでなく、超低消費電力で過酷な宇宙条件に耐える事が求められる火星探査等の長期深宇宙ミッションを可能にします。商業宇宙産業向けのRT(耐放射線)のPIC64-HPSC RTは、間断のないサービス信頼性と宇宙資産のサイバー セキュリティに不可欠な高い耐障害性を提供する事が求められるLEO(地球低軌道)コンステレーション システム プロバイダでは深宇宙に要求される長寿命に比べ低コストの要望を満たすように設計されています。

PIC64-HPSC MPU は以下のような幅広い機能を備えています。これらの多くはこれまで宇宙向けコンピューティング アプリケーションでは利用できなかったものです。

  • 宇宙グレードの64ビットMPUアーキテクチャ: 仮想化とリアルタイム動作をサポートし、自律型ミッションでAI/ML 処理を実装できるよう最大2 TOPS (int8)または1 TFLOPS (bfloat16)のベクタ性能を実現可能なベクタ拡張機能を備えた8つのSiFive® RISC-V X280 64 ビットCPUコアを搭載しています。
  • 高速なネットワーク接続機能: 10 GbE接続に対応する240 Gbps TSN (Time Sensitive Networking) Ethernetスイッチを備えています。また、スケーラブルで拡張が容易なPCIe® Gen 3とCompute Express Link® (CXL®) 2.0 を x4 または x8 構成でサポートし、ルータ内蔵の RMAP(リモートメモリアクセスプロトコル)互換SpaceWire ポートを搭載しています。
  • 低レイテンシのデータ転送: RoCEv2 (RDMA(リモート ダイレクト メモリアクセス) over Converged Ethernet)ハードウェア アクセラレータを搭載し、計算性能に負荷をかける事なく遠隔配置センサからの低レイテンシのデータ転送を容易にし、データをCPUに近づけて計算性能を最大限に引き上げます。
  • プラットフォーム レベルの防衛グレード セキュリティ: 耐量子暗号と耐タンパ機能をサポートする多層防御セキュリティを実装しています。
  • 高い耐障害性: DCLS(デュアルコア ロックステップ)動作、エンドツーエンドのパーティショニングと分離のためのWorldGuard ハードウェア アーキテクチャ、フォルトを監視して低減するオンボードのシステム コントローラをサポートしています。
  • 柔軟性が高い電源チューニング: 機能とインターフェイスを条件に応じた方法で有効化し、宇宙ミッションの各種段階で必要となる計算需要のバランスを取る動的制御を備えています。

2022 年、マイクロチップ社は現行のスペースフライト コンピュータの少なくとも 100 倍の計算能力を提供可能な高性能スペースフライト コンピューティング プロセッサを開発するよう NASA から選定されました。その重要な機能は惑星探査から月と火星の地表探査ミッションに至るまで将来の宇宙ミッションを前進させるものです。PIC64-HPSCはパートナーシップによって成り立っています。NASA、マイクロチップ社、そして Northrop Grumman 社をはじめとする業界リーダーは、2024年7月15~19日にカリフォルニア州マウンテンビューで開催されるIEEE Space Compute Conference で HPSC 技術とエコシステムについての見解を発表します。

  • カンファレンス基調講演 – NASA宇宙技術ミッション局(STMD)副局長補Dr. Prasun Desaiに先進コンピューティングとHPSC技術への投資に関するNASAの戦略についてお話し頂きます。
  • HPSC ワークショップ『HPSC: 宇宙コンピューティングの将来の可能性を塗り替える』: Dr. Desai とマイクロチップ社と JPL (NASA のジェット推進研究所)のスピーカーが、HPSC のプログラムとプラットフォームの概要について説明します。また、航空宇宙業界のパートナーのNorthrop Grumman社のKevin Kinsella氏もお招きし、スペースフライト コンピューティングにおけるHPSCの重要性についてお話し頂きます。その後、質疑応答を行います。

マイクロチップ社の最初の PIC64-HPSC MPU は、産業、車載、通信、IoT、航空宇宙、防衛分野でのインテリジェント エッジ設計を可能にする同社の PIC64GX MPU と同時に発表されました。PIC64GX MPU ファミリの発表に伴い、マイクロチップ社は 8 ビット、16 ビット、32 ビット、64 ビット ソリューションの全領域を積極的に開発している唯一の組み込みソリューション プロバイダとなりました。

マイクロチップ社は航空宇宙および防衛市場に向けて設計された幅広いポートフォリオを展開しています。例えば、RT(耐放射線)および RH(耐放射線強化) MCU、FPGA、Ethernet PHY、パワーデバイス、RF 製品、タイミング、ベアダイからシステム モジュールまでのディスクリート部品等です。さらに、お客様により良いサービスを提供するため、QPL(認定製品リスト)掲載の部品を幅広く提供しています。

[包括的なエコシステム]

マイクロチップ社の新しいPIC64-HPSC MPUは航空対応の業界標準SBC、オープンソースおよび商用ソフトウェア パートナー コミュニティ、システムレベルの統合ソリューションの開発を効率化、高速化する共通商用規格の実装等、包括的な宇宙グレード エコシステムと技術革新の原動力によってサポートされます。エコシステムの初期メンバーは SiFive、Moog®、IDEAS-TEK、Ibeos、3D PLUS、Micropac、Wind River®、Linux Foundation、RTEMS、Xen、Lauterbach®、Entrust®、その他多数です。詳細はマイクロチップ社のPIC64-HPSC MPUエコシステム パートナーのウェブページを参照してください。

マイクロチップ社はMPU、拡張カード、各種周辺ドータカードを含む包括的なPIC64-HPSC評価用プラットフォームも提供しています。

[在庫/供給状況]

PIC64-HPSC のサンプルは2025年にマイクロチップ社のアーリーアクセス パートナーに提供される予定です。詳細はお問い合わせください。